第146回 認知症の母が愛用する「繋がらないガラケー」|中古機種を探してまで守りたかった大切な習慣#1207
認知症が進む母が肌身離さず持ち歩く一台のガラケー。すでにSIMカードを抜き、通話機能はないものの、母にとっては今でも欠かせない大切な「時計」であり「安心の拠り所」です。ある日突然その携帯が故障した際、僕がとった少し変わった解決策についてお話しします。
認知症の母とガラケーの絶妙な関係
母が持っている折りたたみ式のガラケーは、2021年に新調した比較的新しいモデルです。亡くなった父とは対照的に、母は昔から機械操作が苦手でした。現在は認知症の症状も進んでおり、新しい操作を覚えることはおろか、スマートフォンのようなタッチパネルを使いこなすのは到底無理な状況でした。
そんな母にとって、長年使い慣れた「パカパカ」と開閉するガラケーは、手に馴染んだ唯一のデジタルデバイス。たとえ使い方が限定的になったとしても、彼女の生活から切り離すことはできない存在だったのです。
あえて「SIMカード」を抜いた理由
実は、母がサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)に入居して1年が経過した2025年の春、僕は母の携帯からSIMカードを抜く決断をしました。契約自体は維持しつつ、物理的に通信ができない状態にしたのです。これには明確な理由が3つありました。
- 詐欺メールへの対策: 「当選しました」「未納料金があります」といった迷惑メールに母が過剰に反応し、不安になって僕や父に何度も相談してくるのを防ぐため。
- 誤操作による発信防止: 菩提寺や関係各所に、意図せず何度も電話をかけてしまうトラブルを未然に防ぐため。
- 執拗なリコール電話の抑制: 認知機能の影響で、僕や父に対しても数分おきに同じ内容の電話をかけてしまうことが増えていたため。
解約して携帯を取り上げてしまうと、母は「私の携帯はどこ?」と探し回り、余計に混乱してしまいます。そのため、**「通話はできないけれど、時間は確認できるお守り」**として持たせておくのが、母の平穏を守る最善の運用だったのでした。

突然訪れた「時計」の沈黙と僕の焦り
それからさらに1年が経った先日、面会に訪れた時のことです。母のガラケーに異変が起きました。電源がまったく入らず、画面は真っ暗なまま。もちろん、時計としての機能も果たしていませんでした。
充電ケーブルを交換してみても反応はなく、バッテリーの寿命なのか本体の故障なのかも判別がつかない状態です。母はこの携帯で電話をかけることはありませんが、食堂へ行く時も常にハンドバッグに入れ、パカッと開いて時間を確認するのが日課。彼女にとって、それは安心を担保する大切なアイテムなのです。
「このまま電源が入らないのは困ったな……」と、僕は頭を抱えてしまいました。
フリマサイトで見つけた「同じ機種」という解決策
そこで僕がとった行動は、フリマサイトで全く同じ機種の中古品を探して購入することでした。
今どき、通話もネットもしないのに「古いガラケー」をわざわざ買い直す人は珍しいかもしれません。しかし、母にとっては「これまでの形」であることが何より重要です。新しい機種にすれば設定や見た目が変わり、また混乱を招く可能性があります。
数日後、届いた中古端末を母の元へ届けました。電源を入れると、液晶画面に懐かしい時計の文字が復活。元の機体を確認したところ、やはりバッテリーではなく本体側の故障が原因だったようです。
形を変えて続く、親子のコミュニケーション
再びパカパカと開閉し、時間を確認できるようになった携帯を見て、母はどこかホッとしたような表情を浮かべていました。通信機能こそありませんが、この小さな機械が母の日常のリズムを支えているのは間違いありません。
現代の便利なテクノロジーから見れば、SIMカードのないガラケーは不完全なものに見えるでしょう。けれど、今の母にとってはこれが最適で、唯一無二の形なのです。
「繋がらない携帯」を通じて、これからまた母とどんな時間を過ごしていくことになるのだろうか。中古のガラケーを握る母の姿を見ながら、そんなことをふっと思ったのでした。

あわせて読みたい記事
おすすめの書籍

今回のブログ記事前後の関連記事


