第115回 91歳の父、老いと癌に向き合う。精密検査を拒否し「穏やかな最期」を選んだ家族の決断#1176
2025年の夏、91歳を迎えた父に訪れた急激な衰え。肺の疾患を抱えながらも、本人が選んだのは「積極的な治療」ではなく「今を穏やかに過ごすこと」でした。遠距離介護を続ける息子として、主治医の言葉や父の意思にどう向き合ったのか。介護の現場で直面する、切実な選択の記録です。
はじめに:91歳の夏、父に訪れた急激な変化
2025年6月、91歳の誕生日を迎えた父。数年前から足腰の衰えが目立ち、膝を上げることが難しく、手すりなしでは「すり足」でしか歩けない状態でした。
前年にサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)へ入居した際、精密検査で肺に小さな悪性腫瘍が見つかっていました。それ以降、腫瘍マーカーの数値は徐々に悪化。そしてこの夏、父の体調は一段と深刻なものへと変わっていったのです。
繰り返す発熱と下痢、遠距離介護の葛藤
7月から9月にかけて、東京と京都を往復する日々が続きました。定期的な面会や日用品の補充だけでなく、父本人からの「しんどい、熱がある」という電話や、施設の看護師さんからの緊急連絡が重なったためです。
その都度、京都へ駆けつけましたが、数日安静にすれば熱が下がるという状況の繰り返しでした。「このまま様子を見るだけでいいのか」という不安を抱えながらの往復は、身体的にも精神的にも大きな負担となっていきました。
主治医の提案と、父の性格を理解した助言
主治医の先生からは、「癌の影響で免疫が落ち、症状が出ている可能性がある。原因を特定できれば適切な薬を出せるので、一度病院で精密検査を受けてはどうか」との提案がありました。
しかし、先生は長年父を診てきた理解者でもあります。 「お父様の性格上、おそらく精密検査は望まないでしょう。予約をしても当日に行かないと言う姿が目に浮かびます。無理に検査を勧めるより、解熱剤などで苦痛を取り除き、穏やかに過ごすことを優先するのも一つの選択です」 という、家族の心に寄り添った言葉をかけてくださいました。
「もう動きたくない」本人が下した最期の決断
父に精密検査の相談をしたところ、返ってきたのは拒否の言葉でした。 「検査をすれば、また余計な病気が見つかってしまう。もう体力的にも動きたくないから、このままでいい」
父の意志は固く、私たちはその選択を受け入れることにしました。往診の先生には承諾を得られたものの、日々の排泄介助などを担ってくれる施設のヘルパーさんには、これまで以上の負担をかけてしまうという申し訳なさが胸をよぎりました。
だんだんと弱っていく父を見守るということ
最近の面会では、父はほとんどの時間を寝て過ごすようになりました。主治医からは、「このまま徐々に衰弱していき、いずれ食事が摂れなくなる時が来るでしょう。そう長くはないかもしれません」と、静かに告げられています。
本人の「これ以上頑張りたくない」という願いを尊重することは、時に残酷な現実を突きつけられます。しかし、残された時間をどう過ごすか。父が選んだ「何もしないという選択」を尊重し、最期まで寄り添い続けたいと考えています。
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