【90歳超の父の「入れ歯が外れた」騒動と、認知機能の低下によるコミュニケーションの難しさ】#914 介護振り返りnote110
2025年春、僕の父(90歳超)から1本の電話がかかってきました。
内容は「入れ歯が外れて、もう自分では付けられない。お母さんが通っている歯医者さんに、ついでに診てもらえないか」というものでした。
この時点で、まず僕は驚きました。
90歳を超えて自分のスマホを操作し、電話をかけてくるだけでも大したこと。そんな行動力に感心しつつも、状況を整理する必要がありました。
◆ 父の要望と現実のズレ
実は、1ヶ月ほど前に母の歯のトラブルで、訪問歯科を利用し始めていたのですが、その歯科医院は予約制で定期訪問型。急な依頼に対応できる体制ではありませんでした。
また、父の件を僕が直接その歯医者さんに伝えるのは、ケアマネージャーさんなどの介護支援チームを通していない「非公式な連絡」になってしまいます。介護サービスの現場では、こういった“ルート”もとても大切です。
そこで僕は、父が暮らしている**サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)**の看護師さんにまず連絡。ケアマネージャーさんを通じて、別の訪問歯科を手配してもらうことにしました。
そして、父の診察に立ち会うため、僕自身も東京から京都へ向かうことを決めました。
◆ 入れ歯が外れた3日間と、父の混乱
父の義歯が外れたのは5月14日。歯科の訪問予定は17日だったので、その3日間は施設側の配慮で「食材を細かく刻んで」食べやすい食事に変更してもらっていました。
そんな中、17日の朝、再び父から電話がかかってきました。
「差し歯を作ったら8万円かかるって聞いた。勝手に決めず、ちゃんと相談してほしかった」
……え?差し歯?8万円?
僕は「歯医者さんの予約をとったよ」としか伝えていないのに、どうしてこんな話になっているのか。正直、驚きました。
◆ 認知機能の衰えと「妄想的な解釈」
父は、以前から少し気難しい性格でしたが、90歳を超えてからは認知機能の衰えや、幻覚が見えることも増えてきました。
おそらく、施設の食堂での会話や、看護師さんたちとのやり取りを通して得た断片的な情報が、本人の中で妄想的に膨らんでしまったのだと思います。
「自分の歯の治療に多額のお金がかかるかもしれない」
「誰かが勝手に決めている」
——そんな風に不安を感じていたのでしょう。
高齢で体が思うように動かず、判断力も低下している中、自分では医者を手配できず、状況も見えない。だからこそ、悪い方向に物事を想像してしまうのだと思います。
◆ 父の不安をどう受け止めるか
もともと心配性な性格の父。
年齢を重ねた今では、なおさら「面倒なことは避けたい」「できるだけ変化のない日常を過ごしたい」と思っているはずです。
今回の歯の問題でも、
- 新しく義歯を作る必要があるのか?
- 通院しなければならないのか?
- もしかして入院になるのでは?
そんな不安が次々と浮かび、僕への電話につながったのでしょう。
◆ 歯科医の対応と、父の安心
訪問歯科の先生が診察に来てくださった際には、父の気持ちも不安定だったので、僕もそばでフォローに入りました。
診察の結果、先生はこうおっしゃってくれました。
「歯根が少し残っているし、今のところは無理に新しい義歯を作らず、様子を見ていきましょう」
この言葉に、父も安心したようでした。
さらにサ高住の管理者さんもこう言ってくれました。
「お父さま、このご年齢で体力も落ちているし、新しい義歯を作ってもすぐに合わなくなる可能性が高いです。様子見の判断でよかったと思いますよ」
◆ まとめ:高齢の親との関わりで大切にしたいこと
今回の一件を通じて、あらためて感じたのは、高齢の親とのコミュニケーションの難しさです。
認知機能が低下してくると、「言葉の意味そのまま」ではなく、その奥にある感情や不安を読み取る力が求められます。僕自身、父とのやりとりでは「何を伝えたいのか」を慎重にくみ取るよう、意識を集中するようになってきました。
そして、たとえ誤解や妄想があったとしても、そこには必ず“何かしらの不安や恐れ”があることを忘れず、寄り添っていきたいと思います。
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