母の記憶とカレンダーのメモ――命日に導かれた小さな旅 #843【介護振り返りnote039】
2月に決めたサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)への引っ越し。
父と母は、実家でいつも通りの日々を送っていて、引っ越しの話はどこか他人事のような様子でしたが、僕の方は予定日から逆算して、手続きや荷物整理の準備を少しずつ進めていました。
そんな慌ただしい時期、思わぬ方面から一本の電話がかかってきました。
母方の実家が檀家になっている、京都・仁王門にあるお寺の住職さんからでした。
「お母さんからお電話があって、叔母さんの命日にお参りに来たいと。日にちが何度か変わったり、何回もご連絡があったんですが、来られる分には問題ないので、こちらで対応しますよ」とのお話。
ちょうど1月は、2年前に亡くなった母の妹、最後の叔母の命日がある月です。
母は年を重ねても、家族の命日をしっかり覚えていて、お寺へのお参りは母にとって大切な生きがいのひとつになっています。
住職さんの「大丈夫です」とのお言葉に甘えて、その日は僕は京都へ行かず、対応をお任せすることにしました。
というのも、ここで僕が「行かなくていいよ」「お寺さんから連絡があったからね」と伝えてしまうと、母が余計に混乱してしまいそうだったからです。
実家のリビングにあるカレンダーには、母の手でお墓参りの予定が書き込まれていました。
時間を書き換えたり、メモが増えたりと落ち着かない様子もありましたが、それでも大切な予定であることに変わりはありません。

この頃、母が使っていた敬老乗車証は期限が切れていたようで、バスに乗るなら小銭を使ったか、もしくは最初からタクシーで行ったのかもしれません。
お寺と実家の往復くらいなら、まだ母ひとりでもできるはず。無事に行けることを、僕はただ願うばかりでした。
そして命日当日。僕自身はその日が母のお参りの日だったことをすっかり忘れていました。
すると、思わぬところから連絡が入りました。
実家の町内で、昔から親しくしていただいている民生委員のおばさん(近くで立ち飲み屋をされている方)からの電話です。
この方には、以前地域包括支援センターに介護保険の相談へ行った際、ご挨拶をして連絡先をお伝えしてありました。
「さっき、お母さまが喪服を着て出て行かれたんですけど、何かご予定ありますか?」
とてもありがたい連絡でした。
「ああ、叔母の命日でお墓参りに行ったんだと思います。お寺とも連携できているので、おそらく大丈夫だと思います」
とお返事しました。
こうして地域に、母を気にかけてくださる方がいるというのは本当に心強いものです。
その日のうちに、お寺の住職に「無事に来られたか、何か問題はなかったか」を確認し、特にトラブルもなくお参りを済ませたとわかって、ようやく安心することができました。
母にとって大切な命日のお参りが、無事に終えられたこと。
そして、それを支えてくれる地域の人の存在に改めて感謝した一日となりました。
あわせて読みたい記事
おすすめの書籍

今回のブログ記事前後の関連記事